コラム

セミナーレポート
生成AIは1on1をどう変える? 評価と成長支援における活用の可能性を探る

2025/06/13

Index

  1. はじめに
  2. 生成AIによる1on1の評価・分析・フィードバックの試み
  3. 堀井さんとの対話で探る:1on1と生成AIの可能性
  4. おわりに

6月9日に「生成AIで人事制度はどこまで構築できるのか?探求発表会〈第二弾:1on1ミーティングの評価編〉」を開催しました。前半は、弊社島森による生成AI活用の取り組みをご紹介し、後半は1on1エバンジェリスト 堀井耕策氏との対話を通して、生成AIを活用した評価や育成支援の可能性について探りました。
本コラムでは、セミナーでの議論を踏まえ、生成AIがもたらす1on1の進化の可能性についてご紹介します。

音声要約

セミナー内容を、NotebookLMの音声概要機能を使って要約しました。ポイントがわかりやすくまとまっていますので、ぜひご視聴ください。なお、一部に不自然な日本語表現が含まれている箇所がありますが、あらかじめご了承ください。

はじめに

セミナーの冒頭で参加者に問いかけた「1on1の課題は何ですか?」という問いに対して、多くの共通する課題が挙げられました。

  • 目的が分からない、テーマが分からない、やり方が分からない
  • 面談、特に業務進捗確認に終始してしまう
  • 忙しくなると継続できない、定着しない
  • 情報が蓄積されない、その場限りになる
  • 上司のスキルや人間観に左右される、適切な進行ができない
  • なかなか部下の本音を聞き出せない
  • 指示・指導になってしまう
  • 上司が話している時間が長い
  • 上司・先輩が実務に追われて負担になっている

これらの課題の背景には、「1on1が内省を促すためのものである」という目的の理解不足や、「良質な問いかけ」の難しさ、そして上司側の経験不足や人間観の問題 などがあると考えられます。また、人による評価の公平性に欠け、不信感につながる可能性も指摘されています。

このような状況に対し、生成AIを活用することで、1on1の運用を大きく改善できる可能性があるのでしょうか。生成AIを活用した1on1ミーティングの評価・分析・フィードバックの試みを通して、考察していきます。

生成AIによる1on1の評価・分析・フィードバックの試み

成人発達理論から見た1on1  

まずはじめに、人の成長や発達を捉える「成人発達理論」の視点から見た1on1の本質について解説します。

成人発達理論では、人の「認知構造の複雑性」が一生を通じて発達していくと考えられています。人は世界をありのままに捉えるのではなく、自身の認知フィルターを通して認識し、この認知構造が成熟するほど、世界の複雑性をそのまま理解できるようになります。

人は自身が「認知している世界」で行動を選択しますが、成長するためには「認知していない領域」に気づき、その領域を広げることが重要です。1on1は、部下がまだ認識していない課題を発掘し、気づきを促す場となることで、この認知の広がりを支援できます。特に「部下が認識していない課題を発掘する」レベルの1on1ができれば、相互に気づきが生まれる場となり、気づきは多くの場合、すっきりとしたポジティブな感情を伴います。

成人発達理論においては、人の発達には「模倣(手本を示す)」と「問い」という2つの要素が非常に重要です。上司が良質な問いを投げかけ、部下の内省をサポートすることで、認知レベルや発達段階の向上を促すことができます。また、発達段階は固定されたものではなく、状況や関係性によって動的に変化するグラデーションのようなものであるため、その時々の状態を把握し、適切なサポートを行うことが重要です。

1on1ミーティングの上司・部下へのフィードバック

それでは、ここからは、生成AIを活用した実際の取り組みについてご紹介します。

▼1on1の分析やフィードバックの流れおよびプロンプトは、下記記事をご覧ください。
生成AIで人事制度はどこまで構築できるのか?~1on1ミーティングの評価編
https://note.com/growthen/n/ncaf2d9c468b8?magazine_key=mf9bdf79e103e

具体的には、1on1ミーティングの文字起こしデータを生成AIに分析させ、以下のようなフィードバックを得ることを試みました。

上司の1on1スキル評価
傾聴、質問、承認、伝達、育成支援といった視点から、具体的な行動に基づいた評価と改善点をフィードバック。
たとえば、部下の発言を遮る場面や感情への共感表現の不足などが指摘され、具体的なネクストアクション(例:「それは大変だったね」と感情を受け止める言葉を挟む)が示されました。

部下の能力開発課題の特定
1on1の内容から、部下の自己認識、課題認識、フィードバック受容、主体性、問題解決能力などの観点で評価を行い、具体的な改善点やネクストアクション(例:困り事をチャットで相談する習慣をつける)を提案。

発達段階の簡易測定:
1on1の対話から推察される話し手の発達段階の傾向を簡易的に分析。これは静的な評価ではなく、その場面での動的な表出として捉えることが重要です。発達段階の分析結果に基づき、より高次の段階へ移行するための課題や、次の1on1で意識すべき点がフィードバックされます。

生成AIを活用した1on1評価の客観性と効果的なフィードバック

生成AIによる評価は、人間による評価に比べて客観性が高く、属人的なばらつきを抑えることができます。また、評価基準の標準版を策定し、自社に合わせてカスタマイズすることも可能です。これにより、管理職は自身の1on1スキルを客観的に把握し、改善点を知ることができます。部下側も、人間相手では受け入れにくいフィードバックも、AIからの提示であれば受け入れやすくなる可能性があります。

このような生成AIによるフィードバックを活用することで、「ただやれ」という指示だけでは普及しにくい1on1を、組織に定着させるための力強いサポートとなり得ます。また、弊社では、研修効果を高める仕組みとして、研修の事前・事後レポートの評価に生成AIを活用し、個々の課題を明確にした上で研修に臨む、といった取り組みも進めています。

堀井さんとの対話で探る:1on1と生成AIの可能性

セミナー後半では、1on1エバンジェリストである堀井氏と島森との対話、さらに参加者との皆さんとの対話を通じて、1on1の本質と生成AIの可能性について深掘りしました。

1on1の本質は「内省を促すこと」

セミナーの参加者からは、「1on1が内省を促すためのものという説明に腹落ちしました」といった感想が寄せられました。堀井氏は、1on1の本質はまさに「内省を促す」ことにあると強調します。内省とは、自身の経験を深く振り返り、そこから学びを得るプロセスです。

しかし多くの現場では、「1on1の目的がわからない」「やり方が定まらない」「テーマが曖昧」「業務の進捗確認だけで終わっている」といった課題が見られます。1on1を単なる業務連絡や進捗確認の場ではなく、部下自身が「問い」を通じて内省し、気づきを得る機会とすることが、その真価を発揮する鍵となります。問いかけによって人間は考え、具体的なイメージを持ち、行動へと繋がります。

ヤフーが実現した「考える機会」の創出

堀井氏がヤフーでの経験から語るのは、1on1が従業員の自律性を育む上でいかに効果的であったかという点です。ヤフーでは、週に一度30分の1on1を原則として実施し、「経験学習サイクル」における内省の習慣づけを徹底しました。業務での行動を振り返り、何が良かったのか、何がまずかったのかを言語化する練習を重ねることで、従業員は自分で考える癖をつけていきます。

この「考える機会」が豊富にあったことにより、部下側が自ら考えたアイデアを上司に提案し、上司がそれを後押しするという好循環が生まれました。日本の教育システムや多くの企業のマネジメントスタイルでは、上司が指示を与え、部下は指示待ちになる傾向がありますが、ヤフーは意図的に考える機会を増やすことで、自ら考えて行動する人材を育てることができたのです。

日本の経営者層が抱える根本的な課題

しかし、日本において多くのマネージャーが1on1をうまく実施できていない現状も浮き彫りになりました。

参加者からは、「良質な問いかけの重要性は認識しているものの、各部門の管理職にその点を理解してもらい、スキルを向上させるにはどうすればよいか、という点に現在課題を感じています」という声が聞かれました。また、「上司のスキル以前の人間観が・・・」といった指摘や、「褒められない上司は多い」、「質問や褒めるのが苦手な上司」 といった具体的な課題も挙げられています。

堀井氏は、多くの経営者や上司が1on1や部下育成を「大事だと思っていない」ことが根本的な問題だと指摘します。成果責任にフォーカスしすぎるあまり、人材育成という長期的な視点が欠けてしまうのです。

また、マネージャー自身が育成してもらった経験がないため、具体的なイメージを持てず、過去の経験に基づいた指導(弱みを指摘する、正しくやることを求める)に終始してしまう側面もあります。その結果、部下にとっては1on1が「やめてほしい」「苦痛」「詰められる」場になってしまうこともあります。

「問いの力」を上げていくことが大切

さらに、堀井氏は、日本においては、上司が部下に対して「問いを投げかける練習」が不足していると感じていると指摘しました。上司自身が問われる経験が少ないため、部下に対してもうまく問うことができず、結果として指示・指導に終始してしまう傾向があるのです。

ここで生成AIが「壁打ち相手」として非常に有効なツールとなります。上司自身が生成AIを相手に自分の課題やアイデアについて壁打ちを行うことで、問いの質を高める練習ができ、自身の思考もクリアになります。例えば、堀井氏は自身の個人的な課題(パーソナルジム選び)を例に挙げ、ChatGPTとの対話を通じて目的や条件を明確にし、具体的な行動計画に落とし込んでいくプロセスを示しました。これは、仕事におけるスキルアップや課題克服のプロセスと全く同じであり、生成AIが強力な伴走者となり得ることを示しています。

▼堀井さんの記事はこちらから
・1on1ミーティングとChatGPT
https://note.com/1on1comm/n/nbddc9d315ed3?magazine_key=m1b90380c3a9c
・堀井さんの1on1サンプル動画も下記から視聴できます
https://note.com/1on1comm

おわりに

生成AIの進化は目覚ましく、1on1ミーティングのあり方も今後さらに変化していくでしょう。将来的には、AIが1on1の壁打ち相手としてだけでなく, 上司と部下の対話に第三者的にAIが介入し、リアルタイムでフィードバックや質問の示唆を行う「三者面談」のような形式も考えられます。AIが会話の流れを整理したり、脱線した際に方向修正を促したりすることで、より効率的で質の高い1on1が実現するかもしれません。

一方で、生成AIだけでは補えない要素もあります。生成AIは感情や配慮を排した客観的なフィードバックを提供できますが、人間対人間の1on1に不可欠な感情面への配慮や、相手に受け入れられやすい伝え方といった非認知的なスキルは、やはり人間が磨く必要があります。内省した内容を「語り合う」場も重要です。他者との対話を通じて振り返りを深めることで、新たな気づきや学びが得られます。

AIはあくまでツールであり、その効果を最大限に引き出すためには、活用する側のリテラシーとスキルが不可欠です。特に、相手の成長段階に合わせた関わり方や、心理的な安全性への配慮など、人間ならではの「心の成長」に寄り添う側面は、今後も上司や管理職の重要な役割となるでしょう。

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