コラム

セミナーレポート
経験学習で成長を加速させる:内省と自己成長のための実践的アプローチと生成AI活用

2025/10/06

Index

  1. プロフェッショナルに共通する成長習慣
  2. 見えない心のブレーキが行動を制限する
  3. 能力の成長と心の成長の両輪
  4. 経験学習の実践:感情に触れることの重要性
  5. 仮説思考の重要性
  6. 生成AIを活用した内省支援
  7. まとめ:若いうちから経験学習を定着させる

本コラムは、「生成AIで人事制度はどこまで構築できるのか?探求発表会〈第四弾:内省と自己成長のためのAI活用編〉」として開催したセミナーのレポートです。

私たちはこれまで「生成AIで人事制度はどこまで構築できるのか?」という問いを掲げ、評価基準の作成や1on1ミーティングの評価、自由記述回答をもとにした評価など、さまざまなトライアルを重ねてきました。その中で見えてきたのは、人事評価の完全な代替にはまだ課題がある一方で、生成AIは”個人の振り返りや内省を深めるツール”として非常に有効であるということです。

また、成人発達理論の学びや研修設計を通して、人の成長に最も有効なのは「経験学習」だと確信しつつあります。つまり、”内省する力”です。

当初、今回のセミナーではこの可能性をさらに掘り下げ、生成AIを”自己内省のパートナー”としてどう活かせるのかを探る予定でした。しかし、準備を進める中で、AIの活用方法を語る前に、まず「内省」と「経験学習」そのものの重要性をしっかりとお伝えする必要性を強く感じました。そのため、セミナー当日は生成AIの話よりも、内省や経験学習の本質にフォーカスした内容となりました。

動画解説

セミナー内容をNotebookLMで動画化しました(動画解説で自動生成したもの)。
重要なポイントが簡潔にまとまっていますので、ぜひご視聴ください。

プロフェッショナルに共通する成長習慣

サッカー日本代表の本田圭佑選手は子供の頃から毎日振り返りの日記をつけ、大谷翔平選手は父親と交換日記を続けていました。森井翔太郎選手の母親も、野球ノートで息子と交流を重ねていました。各界で顕著な成果をあげている人々に共通するのが「経験学習」の実践です。

経験学習とは、「具体的な経験→振り返る(内省)→持論化(ルール化)→積極的な実験」という4つのプロセスを踏み、このサイクルを回すことによって人は学習するという考え方です。つまり、直接経験に加えて、内的経験(振り返り・持論化)することにより成長スピードが速まります。

見えない心のブレーキが行動を制限する

研修の現場でよく見られる問題行動があります。「積極性に欠ける」「話が長い」「すぐ結論を言う」など。実は、人は無自覚に問題行動を表出したり、自覚的に正当性・整合性をもってその行動を選択しています。

例えば、上司が「もっと積極的に発言してね」と指導しても、「はい、わかりました!」とすぐに積極的になることは少ないですよね。実際、メンバーの中には無自覚に心の中で次のような声があることが多いです。
「挑戦して失敗することが怖いから、言われたことだけをしっかりやる」
「発言したことが否定されることが怖いから、会議での発言を飲み込む」

このように、無自覚な心の声のささやきから、人は自分の中で正当性をもって、「行動しないこと」を選択しています。つまり「心のブレーキ」がかかっているのです。無自覚だったり、自分で正当性・整合性を持っているので、行動はなかなか変化しません。

能力の成長と心の成長の両輪

成人発達理論では、人の成長を「能力の成長」と「心の成長」の両面で捉えます。能力の成長はエンジンの馬力を高めること、心の成長は恐れのブレーキがかかりにくくすることです。

ロジスティック成長モデルでは、基礎的な成長率(能力の成長)と、成長を抑制するパラメータ(心の成長阻害要因)の両方が重要であることを示しています。つまり、自分の中に恐れがあったりする場合、やはり自分に軸足を向けなければいけないのです。

発達段階が高くなると、将来を構想できる力がつきます。若手社員(3.0段階)は段取りを考えて仕事が進められる程度ですが、スペシャリスト(3.5段階)は半年後のゴールに向かってPDCAサイクルが回せます。マネジャー(4.0段階)になると、ありたい姿をシミュレーションして戦略的な構想ができるようになります。役員(4.5段階)では、5〜10年先を見据えた全社戦略が作れるのです。

経験学習の実践:感情に触れることの重要性

弊社が研修を実施する際は、経験学習をPDCAサイクルと融合させています。ただし、Planから考えることは多くの受講者にとって難しいことに気づき、Do(過去の話)から整理するように工夫しています。

さらに重要な発見は、「感情に触れることで内省が深まる」ということです。脳科学的には、記憶と感情はセットになっているため、何か成功体験や失敗体験を思い出すときは、通常は感情と一緒に記憶がよみがえります。逆に、感情と一緒に記憶を呼び起こしたり、感情を伴って記憶を格納したりすることは、非常に重要なプロセスだと考えています。

具体的な演習では次のような問いを活用しています:

  1. 今日(今週)あった出来事の中で、特に印象に残った「うまくいったこと」や「うまくいかなかったこと」は何ですか?
  2. その出来事を通して、どのような気持ち(感情)になりましたか?
  3. その気持ち(感情)から得られた気づきや、次にやってみたいことは何ですか?

このプロセスを通じて、単なる出来事の羅列ではなく、深い内省が可能になります。内省している時間は心の安らぎ(治癒)の時間にもなるのです。

仮説思考の重要性

経験学習のもう一つの重要な要素が仮説思考です。仮説とは「…したら、…がうまくいくかも」という成功・失敗があるものです。

多くの人がPDCAサイクルを知っていますが、仮説検証のサイクルだと理解していません。仮説なので、やってみないとわからなくて、やってみたらうまくいく場合と失敗する場合があるのです。

仮説の見極め方として、以下のポイントがあります:

  • 実行しても失敗がない表現であれば、仮説ではない
  • 表現に具体性がなく、一般論であれば、仮説ではない
  • 実行計画が毎年同じような表現であれば、仮説ではない

時間軸の往復ができること、抽象度の往復ができること、視点の往復ができること、認知と感情の統合ができること、忙しさと余白の緩急がつけられること、自分らしさを発揮できること。これらのリーダーシップ発揮に必要な6つの思考力を磨くためにも、経験学習は最適な方法なのです。

生成AIを活用した内省支援

経験学習の定着には、生成AIが強力なパートナーになります。AIは記録した経験に対して「なぜそう感じたのですか?」という内省を促す問いかけを投げかけます。感情的に判断せず、客観的な視点を持つことで、ユーザーの思考を深掘りしてくれます。

さらに、ユーザーの内省から得られた気づきや学びをAIが抽象的な概念や法則として整理する手伝いをしてくれます。つまり、内省と概念化の部分をサポートしてくれるのです。

良い振り返りは単なる出来事の羅列ではありません。多くの会社でやっている日報・月報などは出来事を書いているから深まらないのです。やるんだったら、内省をきちんと入れる月報を書いてほしいと思います。

まとめ:若いうちから経験学習を定着させる

社会人として大きく成長するのは30〜35歳くらいまでで、50歳くらいになるとほとんど発達しません。やはり若いうちから経験学習をきちんと定着するということが、まずは大事です。

忙しい毎日の中で、余白の時間で振り返る。そして、内省している時間は心の安らぎの時間になります。やっぱり書くのが好きで、その時にやはり心を落ち着かせているという感覚があります。急いでやると全然ダメなので、少し時間をかけて丁寧に内省することが重要です。

経験学習という普遍的な概念と生成AIが融合することで、真の力を発揮するのでしょう。一日5分でもいいので、内省の習慣を作ることから始めてみてはいかがでしょうか。

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