コラム

Vol.182 人材育成のカギ「思考の抽象化と複雑性の向上

2025/10/30

成人発達理論を応用した人材育成のキモは「思考の抽象化と複雑性の向上」

以前、日本でのインテグラル理論の第一人者である鈴木規夫さんにこんなことを言われました。

経営者も新入社員も、脳のメモリは同じです。役職が高い人は、”捨てる”ことでメモリを確保しているんですよ

経営者は日々、多くのシミュレーションを行い、指示を出し、その内容も覚えています。
それでも「脳のメモリは一緒」という言葉が意外で、とても印象に残りました。

経営者の思考の秘密

では、どのように経営者はメモリを確保しているのでしょうか?

認知心理学者グレアム・S・ハルフォードは、人間の思考の単位を「チャンク(chunk)」と呼びました。
人間の作業記憶(ワーキングメモリ)は、およそ4つ前後の要素しか同時に関連付けられませんが、経験を重ねることで、複数の要素を「意味のあるまとまり」としてまとめて処理できるようになります。
これがチャンク化です。

たとえば、新人は「お客様への挨拶」「商品の説明」「見積書の提示」をそれぞれ別の作業として覚えます。
しかし、経験を積んだ営業マネジャーは、それらを「信頼関係をつくる一連のプロセス」という一つのチャンクとして捉えます。
これが「抽象度を上げる」ということです。

抽象度を上げるとは、細かな事象を上位の概念や原則にまとめ、思考を整理すること。
経営者はこの「チャンク化」や「抽象化」を繰り返すことで、複雑な状況を少ないメモリで理解し、意思決定の余白をつくっているのです。
つまり、「捨てる」とは情報を忘れることではなく、「より大きな単位にまとめる」ことでもあります。
情報を整理し、構造化し、意味の階層を上げることが、思考の容量を広げる最も知的な“省エネ術”なのです。

成人発達理論と「思考の複雑性・抽象度」

この「抽象度を上げる思考」は、弊社の注力テーマである成人発達理論の研究とも見事に一致します。
現在、米国のレクティカ社(成人発達心理学者Dr. Theo Dawsonが設立)の論文を読み進めていますが、彼女たちは、どの発達理論にも普遍的な発達のコアな部分を特定しました。
それが、まさに思考の「複雑性」と「抽象度」でした。

これは、どれだけ経験を積み、その体験から原則化(「複雑性」+「抽象度」)してきたかが、
成人発達理論でいう発達段階を上げる行為であるということを示しています。

経験学習の定着

ここまで話をきいて、勘の良い方は「経験学習」をイメージしたと思います。
経験を通して、いかにこの「原則化」のプロセスを定着させるかが、発達促進に最も寄与すると考えています。

そこで、成人発達理論の観点から、どう経験学習を取り扱うのか、そしてどう定着させるのかを、ここのところずっと考えてきました。この知見・ノウハウを年末のセミナーでお伝えしたいと思います。

また、この手法は、私たちが継続してきたグループリフレクション(グルリ)と高い親和性があります。セミナーでは、経験学習を習慣化し、思考力を高めるための場として、公開型グルリ第2期についてもご紹介したいと思います。

興味のある方は下記からお申し込みください。

▼成人発達理論を応用した人材育成のカギは「思考の抽象化と複雑性の向上」
 本質的な成長を促す「深く考える力」を育む経験学習のヒント
日時:2025/12/05(金) 10:00~11:30
申込:https://www.growthen.co.jp/seminar/20251205/

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