コラム

データドリブン人事を実践してきた人事担当者に学ぶ
タレントマネジメントシステムの活用事例を徹底解説

2024/03/25

Index

  1. タレントマネジメントシステムで何をするか?どの機能を使うか?
  2. タレントマネジメントシステムの活用シーン:育成・評価・異動
  3. タレントマネジメントシステム活用で考慮すべきポイント
  4. タレントマネジメントシステム導入後の課題

タレントマネジメントとは、人材マネジメントの手法の一つです。従業員一人一人が持つ能力やスキル、経験といった情報を、採用や育成、配置に活用することで、企業の成長につなげていくというものです。タレントマネジメントを実現するために、人材データを集約・一元管理して高度な意思決定を可能にするのがタレントマネジメントシステムです。

タレントマネジメントへの関心度は年々高まっています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングとSmartHRによる共同調査「人事のデジタル化に関する実態調査(2022)」によると、4割ほどの企業がすでに導入済みであり、導入に向け準備中、検討中を含めると9割を超えています。また、株式会社野村総合研究所が「ITナビゲーター2021年版」で市場規模の予測をまとめていますが、タレントマネジメント領域の市場規模が拡大傾向にあることが分かります。深刻化する人材不足、人材の多様化を背景に、競争力強化のための人材戦略の重要性が高まってきました。

データに基づいて判断となるとタレントマネジメントシステムの必要性を実感するものの、導入に二の足を踏んでしまう企業が多いことも事実です。

「タレントマネジメントシステムを入れるのは難しそう」
「使いこなせるか分からない」
「費用対効果が出なさそう」
「経営陣にどうやって話したら納得させられるだろう?」

不安や疑問は尽きないかもしれません。実際のところはどうなのか、今まさにタレントマネジメントシステムを活用している人事の担当者に、取り組み事例を伺いました。

タレントマネジメントシステムで何をするか?どの機能を使うか?

自社の経営・人事課題や環境に合わせて使う機能を選ぶ

タレントマネジメントは人事業務の全領域を網羅するものなので、「タレントマネジメントシステムを導入するからには、全部の領域を使いこなさなくては!」と捉えられることが非常に多いです。もちろん、まず一旦それを目指すのもいいでしょう。当社で実際に使っている領域としては、内定者管理から育成、評価、異動、昇格任用、労務、健康管理、退職、といった人事のほとんどの領域です。募集段階や面接のフローで使うことはなかったので、全領域というわけではありません。

想定される機能を想定通りに使うことではない

タレントマネジメントシステムを使うポイントは、想定される機能を想定通りに使うことではないと考えます。例えば、採用管理の機能があったら採用管理のために使う、と思いがちですが、必ずしもそうする必要はありません。

当社の場合は内定者管理から使っていたので、タレントマネジメントシステムに内定者データが入ることによって「他にどういうところで選考を受けていましたか?」「B社さん・C社さんは受けましたか?」というような質問と回答が記録できます。そういったデータは入社後にもシステムに保存されていますので、面談時の注意点を事前に把握するなどの使い方ができるようになります。この「内定者の段階から個人のデータを蓄積できた」ことは非常に大きかったと思います。

必ずしもこの機能があるからこの機能を使わなくては、という使用方法でなくても良いのです。「今、会社としてはこういうことをしたい、だからこのシステムを活用すればこういうことができそうだな」と担当者が考えていくところが重要です。

機能の本来の使用方法に縛られる必要はない

タレントマネジメントシステムは、何でもできるように見えがちです。各社のシステムのアップデート情報を見ると、最近では人的資本の内容や健康経営の内容など、アップデートの頻度がかなり激しくなってきているようです。そうなってくるとどの機能を使えばいいのか、迷走してしまいます。

タレントマネジメントシステムは、自社の経営・人事課題や環境に合わせて使う機能を選び、データをどう加工して入れるか次第で大きな力になります。こうしたことを考えて構築するのが、ある種人事の腕の見せどころになってくるのかもしれません。システムに操作されるより、人事が考えてシステムを操作できるようにしていくことが重要なポイントです。ですから機能の使い方としては、本来の使用方法に縛られる必要はないのです。

タレントマネジメントシステムの活用シーン:育成・評価・異動

育成

育成を考えたときに、一般的にはLMS(ラーニングマネジメントシステム)として使っていくことが想定されます。タレントマネジメントシステムにある機能で言うと、eラーニングの受講は便利なのでそのまま使ってもいいと思います。ただし、例えば動画は別のクラウドストレージから埋め込みで引っ張るなど、教材の保存場所はシステムの内外どちらにするか、復習環境や再受講などを想定して判断するのが良いでしょう。

受講管理は正直なところ、当社ではあまり使っていません。学習時間の集計などを考えた時、該当タレントマネジメントシステム以外の、他社eラーニングでの学習時間がカウントできなくなってしまうため、別の機能で受講管理を実施しています。

研修のグループ構成の検討に活用

オンライン研修でもリアル研修でも共通ですが、研修効果を最大化させるためのグループ構成の検討でも一部タレントマネジメントシステムを使っていました。

例えば、タレントマネジメントシステムにOJTの経験データが蓄積されていると、「この人は何回OJTの経験があるのかな」「最後にやったOJTはどのくらい前かな」といった情報が一目で分かります。一つの画面上にOJT経験が少ない人から多い人、職種別ではこちらが営業職・そちらはコーポレート職、などの形で分類表示ができるわけです。そうすると、OJT経験豊富な人が固まらないようグループをバラバラに分け、OJT経験を各グループで語れるような環境を作ることができます。また、経験が少ない人の不安払拭のために、OJT経験豊富な人に研修受講者の立場から協力してもらうことも可能になります。

Excelでやるとどうしても時間がかかることが、タレントマネジメントシステムによってデータが構築できていたからこそ、簡単にここまで手厚くできました。育成に重要な影響を持つ「研修のグループ構成」にも、タレントマネジメントシステムは活用可能です。

評価

評価だけでなく、ハイパフォーマー分析やサクセッションプラン策定に活用

最初はタレントマネジメントシステムを一般的な評価システムとして使っていくことが想定されると思います。当社では、タレントマネジメントシステムを入れて約2年後に社員向けに展開となりました。最初は人事が使うだけの目的でタレントマネジメントシステムを導入しましたが、制度変更のタイミングでいよいよ社員側にも展開していく流れとなり、完了まで2年ほどかかったという経緯です。

いわゆる評価システムは「評価するためだけ」のシステムになってしまいがちですが、タレントマネジメントシステムの中の評価システムなので、様々な側面から「自分が自分をマネジメントして、パワーアップさせていく」ための評価にしたいという目的のもと実施できました。

特にタレントマネジメントシステムを活用していく上で、評価情報の蓄積は最重要です。ハイパフォーマー分析やサクセッションプランを組むことなど、こうした機能がタレントマネジメントシステムに入っていてよかったなと思っています。

アンケート機能で評価者側・被評価者側それぞれの課題と感情の抽出

タレントマネジメントシステムを普通の評価でも活用していましたが、課題解決の場面で使うことも多々あります。使用頻度が高いのは、システムの中のアンケート機能です。評価はどうしても主観的な判断が出てしまうので、「なんとなく感じている課題」を明確にし、その都度適切な対応策の実行につなげていく必要があります。そのために評価者側・被評価者側それぞれの課題と感情の抽出をアンケートで実施してきました。

具体的には、半年に1回フィードバックについてアンケートを取っていました。「評価のフィードバックに納得できましたか?」「フィードバックにどれぐらい時間かかりましたか?」「どんなフィードバックを受けましたか? その理由はなんですか?」というようなアンケートを半期ごとに行います。

アンケート結果から出てきた課題に対して、解決策を人事の中で考え実施し、また次のアンケート評価をする、この繰り返しを続けるわけです。その効果検証という形で、システムの中でダッシュボード化していました。

評価のフィードバック納得度がどうやって向上したのか、グラフ化すれば誰が見ても分かります。課題抽出と仮説設定→課題解決策実行→効果検証、このPDCAサイクルをタレントマネジメントシステムによって回していけば、切れ目なく課題解決を続けていくことができます。

異動

タレントマネジメントシステムのCMでも「ドラッグアンドドロップで異動のシミュレーションができる!」という機能がよく紹介されているようです。こういう使い方が一般的かと思いますが、上手な活用が難しそうだと感じたので私自身は特に使っていません。

その他

タレントマネジメントシステムのその他の活用シーンでは、採用でいうと先に述べた内定者管理や就活時アンケート、部署希望調査や面談記録でも使っています。育成面では360度評価や適正検査分析。昇格ではサクセッションプランの記入や任用・解任の履歴検索によく使います。

労務系は賞罰記録や残業時間のダッシュボード(個別・全社)。健康管理では面談記録や社内の健康管理室カルテ、健康診断結果もタレントマネジメントシステムに格納しています。また、退職者アンケートや人数推移ダッシュボードなど、幅広くタレントマネジメントシステムを活用しています。

タレントマネジメントシステム活用で考慮すべきポイント

データの見定めと集め方

無いものはつくる、見えてないものは見えるようにする

最も重要視してきたのは「思考と判断に意識が向けられるようなタレントデータの活用、それによる人材開発の最大化」です。まずは、無いものは作る、見えていないものは見えるようにするしかないと考えました。システム導入直後はデータが空っぽなので、基本的には今あるデータを入れることが第一歩です。ただ、「このデータがない、どうやって作っていこう?」など、考えて構築する必要があります。

無いものは作り、見えないものは可視化することによって、「タレントマネジメントシステムってこんなことまでできるようになるのか!」と、人事の中の目線も変わってきます。活用以前の話ですが、こういった「無いものは作っていく」という意識も重要なポイントです。

データを「どう見たいか」を明確にする

「どう見たいか」でどう入れるか・どう作るかが変わります。ここでは退職者分析をタレントマネジメントシステムで行う場面を例に見てみましょう。

退職日のデータを人事システムから連携する時、「2019年3月31日」のような年月日のデータになってくることと思います。私はもっと細かく分析したかったので、「2019年3月31日」というデータを保持しながらも、退職年と退職月というデータも別で用意しておきました。こうすると、2019年というデータを保持しながらも、別で3月というデータの列を設けることによってクロス集計がやりやすくなりました。

「自分がどういう形で見たいのか」次第で、データを分解する必要が出てくるかもしれませんし、オリジナルの項目を作る必要が出てくるかもしれません。そこは試行錯誤しながら続けるしかないところです。

現場での活用のために、まずは人事が使えるシステムに

運用面から見直しをかけ、効率化につなげることが非常に大切なポイントです。かと言って、私も入社していきなりそんなことができたわけではありません。

当初はデータの活用がまだまだできていませんでした。各種データを見ようにも、色々な人のデスクトップにExcelファイルが眠っているような状況だったので、当然データ分析はできていないし、タレントマネジメントシステムも(人事の中ですら)若干冷めた目で見ている状態です。あまり皆さんにタレントマネジメントシステムが使われていない状況だったので「これは急いで立て直ししないとまずいな」と焦りました。

人事が使えるようなシステムにしないと現場の人に使ってもらえそうにないと思ったので、まずは一旦人事が使えるような形で様々なところに見直しをかけました。

タレントマネジメントシステム導入後の課題

Excelマクロ等と同じように属人化しやすい

皆が使うシステムなので、ある程度皆に触らせる習慣が必要です。私も前職を辞める時にはタレントマネジメントシステムの引き継ぎに時間がかかりましたし、全てを完璧に後任の人が把握することは難しいものです。放っておくとシステムもかなり属人化しやすくなります。せめて担当は1人だけでなく、最低限2人は必要だということが大きな反省点です。

マニュアルを作成するか否か?

タレントマネジメントシステムも当然バージョンアップが頻繁に行われます。例えばパワーポイントでマニュアルを作るのも「一時的には」問題ありません。しかしアップデートの度にまたマニュアルを作り直すのかというと、ここは今でも悩みどころです。マニュアルをアップデートに合わせてずっと更新していくのは限界があるでしょう。

やはり基本的には人が使って、手を動かして覚えてもらうような形でやっていくのが現状ではベストかなと思っています。

最後に

マネジメントする人間がきちんと観察してフィードバックする・問いかけるということがますます重要になってきます。もちろんタレントマネジメントシステムをサポートツールとして持っていた方がいいのですが、システムに頼り切る運用にはしない方がいいでしょう。タレントマネジメントシステムはあくまで「人間がうまく使い切るかどうか」。便利な道具の一つとして主体的に使いこなすことができるといいと思っています。

もっと詳しく知りたい方へ

採用や研修に関するセミナーは様々なところで見かけますが、タレントマネジメントのセミナーはシステム会社が主催しているところがほとんど。タレントマネジメントシステムを活用している人たちは、まだまだ孤独です。

採用単体なら経験豊富な上司に相談すれば勝ち筋が見えたりもしますが、上司もタレントマネジメントシステムの全てを分かっているわけではないので、自分で考えて自分で解決するしかない場面が多いことでしょう。だからこそ、横のつながりが貴重なものとなります。他の会社と活用方法の情報交換をするなど、タレントマネジメントの領域では一つ一つが刺激になるところがあると思っています。

グローセンパートナーも実はタレントマネジメントシステムをご紹介する立場ですが(やはりベンダーの方がいらっしゃるとどうしても気を使ってしまうと思うので)あまりベンダーに依存しない形でのコミュニティ・交流の場が作れたらと考えています。

簡単にタレントマネジメント導入のポイントをまとめた資料もありますので、ダウンロードしてご覧ください。

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