コラム

Vol.53 クーデター中のタイから帰国しました

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2014/05/28

Index

  1. クーデター中のタイから帰国しました

クーデター中のタイから帰国しました

「アジア進出中小企業のための人事施策運用ハンドブック(仮称)」の執筆に向けた情報収集のために、タイに出張していました。戒厳令が出たり、クーデターが起きたりしましたが、現地は至って平穏でした。武装している兵隊さんには少々驚きましたが、田舎に行くと男性が昼間から闘鶏(ギャンブル)して大騒ぎでした。

今回は、6社ほどの中小・中堅企業~上場企業までお話を聞けましたので、人事・組織的観点でまとめたものをお送りします。文章としては大量になりますが、ご興味ある方はご一読ください(インタビューしたものを軽くまとめた程度なので、参考にする・しないは読者様のご判断にお任せします)。

1.成功する進出・失敗する進出(総論)

中小企業の成功パターンは、「覚悟」と「知恵」で勝負、大企業の成功パターンは、「人材(地頭力)」と「資本力」だと思いました。「覚悟」という表現をしましたが、失敗する人は上手に言い訳を作っています。「本当はタイ進出に反対だった」「親が病気で帰国しないと」という言い訳がある人は「覚悟」が中途半端になるので、本腰を入れてタイに馴染もうとしないからです。そういった意味で、中小企業にとっては、経営者の子息・兄弟を現地社長にすることが一番得策だと思いました。逃げられないので、腰が座ります。また、現地で成功している人は、海外志向があるというより、仕事ができる人≒地頭が良い人でした。学歴も必要でしょうが、体育会系経験者でコミュニケーションが上手な人が多いようです。1つ言えるのは、柔軟性という観点で、最初の赴任は35歳前までがよいと思います。20代でタイに赴任している方が活躍していました。45歳以上で現地に馴染むのは、なかなか難しいかもしれません。

一方で、大企業は資本を使い、現地の財閥などと組んで、人脈・情報を上手に活用しながらスマートに経営している感じでした。

2.タイ人の気質について

基本的に生活のために働く真面目さがあるという点と、よく見ていないと生産性が下がる・不正をする可能性がある点と、とにかくうわさ話が大好きという点が特徴です。うわさ話が好きという性格は、(アメリカの心理学者ディヒター氏によると)自分を評価して欲しいという心理が働いているそうですが、まさに評価して欲しい・自分を見て欲しい民族だと感じました。日本人も同じだと思います。

タイの現地人が働くモチベーションについて整理しました。

タイ人が働く理由1】収入・経済的豊かさの追求

タイの現地スタッフにPositionを与えると動機づけられることや、現場からの高温手当などの要望は、結局は収入を増やしたいという1点に尽きます。(効率的かはさておき)残業も喜んでやります。(効率的かはさておき)休日出勤もします。残業がないと不満を言います。家賃相場も大幅にアップしてきているので、直近の収入アップが気になっていると思います。

【タイ人が働く理由2】働きやすさ・居心地の良さの追求

うわさ好きのタイ人にとって、大好きな友達がいること、上司・職場の人間関係が良いことは大切な要素です。逆に、仕事に人間関係を持ち込むので、上司は部下の人間関係に注意を払わなくてはなりません。職場で一人ひとりの言動を見ながら、けんかしていないか?いじめはないか?仲間外れになっていないか?目を光らせることも管理職の大事な仕事です。人間関係の問題解決は難しいので、きっちり事実を把握して対処するようにしてください。うわさ話が現実と混同されて話されるので困ると言っていました。

【タイ人が働く理由3】自分は大切に思われている感の追求

タイ人は、自分を評価して欲しいという心理が働いているので、ちゃんとそれに応えると良いようです。お誕生日会をやったり(一人だけ忘れることが無いように)、New Yearのパーティーをやったり、日本語・英語の勉強会を開催したりすると効果があるようです。また、日本人スタッフだけで決めないで、現地スタッフの意見も聴いて、参考として取り入れる配慮が必要です(実際に不満を言っている現地スタッフの方もいました)。プライベートの把握も大事で、親の職業や、家族のことなどについて聞くと答えてくれるそうなので、個別に情報収集して、その人なりの配慮をすることが大事です。

3.現地スタッフの採用で気を付けること

いくつか聞いた話をお伝えします。参考にする・しないの取捨選択はお任せします。

  • タイ人は13種類の微笑みを使い分けているらしいです。それぐらい表情作りには敏感なので、採用面接だけでは性格は分からないかもしれません。
  • 職務経歴書に掲載されている前職の企業に、職務姿勢などを確認するなどの方法を用いているようです。退職者情報は、お互いさまの話なので比較的Openに情報をいただけるケースが多いようです。
  • 管理職・スタッフ系社員など重要なPositionの場合は、レファレンスチェックをしているようです。そういったサービスを受ける会社もあるようです。考え方によっては、必要なコストかもしれません。
  • 日系企業を希望する理由として、都心では「アニメ好き」「ゲーム好き」「ジャニーズ好き」の人たちが増えてきているようです。クールジャパンの影響は大きいです。
  • 男性は麻薬をやっている人がいるので、事前の健康診断+尿検査はやったほうがよいと言っていました。
  • タイでの解雇は難しいと皆さん口をそろえて言います。労働法的には120日以上勤務すると解雇補償金が発生するので、119日(≒3~4カ月)までを試用期間にしているケースが多いです。この期間であれば、解雇は比較的やり易いという風潮で、問題社員などは試用期間内に解雇する必要があります。
  • 不正が多いので、不正をさせない仕組みが大事です。15年以上もタイでオーナーをしてきた経営者の奥さん曰く「信頼するとやってくれる。ただ、時々裏切られる。それを許すことも大事」ということでした。

4.退職について

いくつか聞いた話をお伝えします。こちらも、参考にする・しないの取捨選択はお任せします。

  • ジョブホッピングをするのは30歳半ばぐらいまでで、その後は定着する可能性が高いそうです。日本と一緒です。
  • 現場の不満は、経営者と現場のコミュニケーション不足に起因することが多いので、情報開示とコミュニケーションをすると要望(経営者と社員の想いのギャップ)が段々少なくなるようです。
  • 日本人的感覚に近いですが、「空気は読める」そうです。ですから、退社のときに「ライベル企業に転職します」などとは言わずに、家族が病気になったなどの理由で退社するようです。
  • やめる一番の理由は人間関係です。比較的組織風土が安定して、退職率が1%程度の企業でも、やめる人は人間関係に起因しているようです。
  • やめる時にはお金が絡んでいるケースが多いそうです。日本の「結」「無尽」と似たネットワークがあり、お互いにお金の貸し借りをしているようです。借金を返せなくなると夜逃げ?=退社しなければいけないケースも多いそうです。

5.福利厚生

現地スタッフを会社に定着させるためには、福利厚生の充実も大事です。

  • 食堂が充実している(安くておいしい料理を提供されること)。
  • リクリエーションが充実していること(スポーツ大会をちゃんと実施すること)。スポーツ大会とは、サッカー・セパタクロー・バドミントン・卓球などの大会で、大企業は自社内で、工場団地では会社対抗で実施しているようです。労務局からもスポーツ大会を実施して、適度にガス抜きをするように指導があるようです。
  • 慰安旅行・忘年会などの実施。まだまだホテルで食事をしたり、1泊2日の旅行をしたりの経験はないので、結構喜ばれます。こういったイベントではくじ引きなどで商品を準備し、TVが当たったり結構盛り上がるそうです。優秀社員などは是非表彰しましょう。評価されたい人種なので。
  • 日本への出張研修も大変喜ばれます(親日的なので日本には行きたいようです)。年に1名でよいので、実施しているという実績が大切です。日本に行って何が良かった?と聞くと「全部」と言って喜んでいました。特に、「雪」「桜」は深く印象に残っているようです。

6.タブーなこと・注意すべきこと

  • 面子を重要視するので、人前で叱ることはタブー
  • 人前で我を忘れて怒ると、人格的に未熟だと思われる
  • 指示したことをやっていない・忘れることが多いので、ちゃんと進捗確認が必要
  • 計画策定は上手だが、実行に移せない

などは注意をしてください。

最後に

等級制度・評価制度・報酬制度など肝の部分は、書籍に掲載しようと思います。インタビューにご協力いただいた皆様ありがとうございました。これらを参考にして、中小企業のアジア進出に役立つ本ができればと思います。

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