コラム
今後の評価制度の在り方について
コラム記事
2019/09/03
組織の在り方・人材のマネジメント方法が、管理によるマネジメントから、経営者や会社の成熟度に応じて、徐々に自律性によるマネジメントに変わりつつあります。その中で、評価制度を見直す企業も増えてきていますので、私の観点で評価制度の改定の方向性について述べさせていただきます。
評価制度の限界
まずは、評価制度を見直す視点として掲げられるのは、評価の限界性に気づきつつあることだと思います。成果主義の設計において評価制度の構築に時間をかけ、評価者育成に研修など実施してきたプロフェッショナルとして、あえて評価制度の限界を言葉にしてみます。
- 評価者側に解釈や価値観がある以上、どうしても評価に好き嫌いや甘辛が生じてしまう。
- 緻密に評価ロジックを設計しても、必ず評価結果に調整を加えたくなる。つまり、最初からその人の評価が決まっている。
- 評価したい内容は、成果・プロセス・行動・能力・姿勢・成長度合い・組織への影響度合いなど様々あり、評価シートを使って人を評価することに限界がある。
- 多様化を大切にする時代に、一定の能力基準・行動基準で人を評価することは適さない。
- 目標設定しても、環境変化が激しいので、頻繁に役割が変わったり、方針が変ったりする。その度に、目標設定するのは現実的に無理である。
一方で、組織が成熟してきており、人をマネジメントするという視点から脱皮する企業が増えてきています。『ティール組織』が出版され、多くの人事担当者が本を手に取ったと思いますが、ティール組織の前段階のグリーン組織においても、評価制度という仕組みを手放すはずだと思います。
そういった観点から、評価制度をどう変えていくのかという方向性についてアドバイスします。
評価制度導入の狙いは?
まずは、「評価は主観で決まる」という前提で考えた場合、評価制度を導入する狙いは何かについて考えていきます。
1.報酬的インセンティブ決定機能
主に、昇給決定機能・賞与決定機能・昇格/昇進決定機能があると思います。この中で、評価結果に応じて、ダイレクトに評価できるのは賞与評価のみだと考えています。理由は、以下の通りです。
- 昇給決定機能
成果主義を導入して感じたことは、給与を下げると社員のモチベーションがかなり下がることです。同様に、昇給ゼロが数年続くと社員のモチベーションが低下傾向になることも分かりました。昇給は少額でも良いので、できれば定年まで上げ続ける設計が良いと思います。そういった観点からすると、評価結果に応じてあまり差を設けない仕組みが得策です。できれば、③の昇格/昇進時に大幅に昇給する仕組みがお勧めです。 - 賞与決定機能
給与は将来への投資、賞与は過去の成果に支払うという考え方が一般的です。賞与に関しては主に業績評価に基づいて、大きな差をつけても良いと思います。なぜかというと、賞与は一度の払いきりなので、次回の賞与支給額に影響しないからです。また、賞与は支払いの義務もなく、多少の変動は一般的に受け入れられるからです。中小企業の3社に1社は賞与の支給がないと言われています。 - 昇格/昇進決定機能
評価制度は、一般的に過去の評価をする機能です。一方で、昇格/昇進は将来の可能性を考慮するために、過去評価だけで決定するケースは少ないです。将来の可能性を考慮する以上、主観的な評価になってしまいますし、昇格/昇進を決定する場合は相対的な評価で決めることが多いです。例として、課長のポストが空いた場合、課長候補者の中で適任者を1名登用するなどです。そういった意味で、実は過去評価の参考度合いは低いと言えるでしょう。
2.報酬的インセンティブ決定以外の機能
評価には 、報酬的インセンディブを決定する機能以外に下記のような機能があります。
- 方針展開・役割認識機能(目標展開・役割付与など)
- 人材育成機能(成長課題の設定・評価のフィードバックなど)
- モチベーション向上機能(非報酬的なインセンティブとして権限移譲・承認など)
- 個性の把握と適材適所機能(本人が力を発揮できる役割分担・計画的なローテーションなど)
- フィードバックによる気づき機能(上司から見た認識のフィードバック・会社から期待する行動など)
これからの評価制度に必要なこと
今や、報酬的インセンティブ決定以外の機能(上記①~⑤)に重点を置いて、評価制度を構築する時代に入ったと考えています。そうなると、下記のような機能に時間を割くことが必要になるでしょう。
1.方針展開の対話
上司と部下(役員同士、役員と部長クラス、部長クラスと課長クラス、課長クラスとメンバー)とが方向性について対話する時間をしっかり持つ。トップダウン型で伝えるというより、環境変化の認識と、今後の方向性の共有と、行動する判断軸を共有するイメージです。方針展開は上司側の認識と、部下の認識が異ならないように時間をかけて展開するべきだと思っています。方針展開の過程で、上司の考えていること、職場のメンバーが考えていることについて情報交換することそのものが、人材育成の促進になり、価値観共有の場になると思います。
2.人材育成会議による評判の交換
年に1~2回は人の育成に対する会議体を持った方が良いと思います。一次評価者・二次評価者が集まって、一人ひとりの「強み・弱み」「評価結果」「今後の育成方向性」「昇進・昇格・異動などの必要性」「研修などの機会提供」「本人の希望(自己申告)」などについて丁寧に意見交換する場のイメージです。ここで、人材の情報が収集され、意思決定される機能を担います。単なる報酬を決める評価決定にとどまらず、人材育成・適材適所の視点を盛り込むことがお勧めです。
3.1on1による上司と部下との真のコミュニケーション
上司と部下とが対話の時間を持ち、部下の話に耳を傾けながら承認して、次の行動をお互いに共有するイメージです。PDCAサイクルを回すためのフォローの他に、部下がつまづいているところの真因把握や、部下の強み弱みの把握、適材適所や将来のキャリアなどを考えながら、真に部下のために使う時間です。ここに時間をじっくりかけることにより、上司側の認識もほぐれて、上司側の成長にもつながります。
最後に
色々なことを述べましたが、1つ大切なことを述べて締めくくります。
会社の独自性が大切な時代になってきています。それは、人材の採用や定着にユニークさが必要だからです。どのような評価制度にするかは、経営者の経営に対する考え方と整合性が取れている必要があります。そういった意味で、正しい評価制度はなく、その会社にあったやり方を試行錯誤しながら見つけていくことに他ならないと思います。もう、事例や他社を模倣するする時代は終わったと言えるかもしれません。
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