コラム

成人発達段階のアセスメント「LDMA」を受検して

2022/05/10

執筆者:菊地

成人発達段階のアセスメント

「LDMA」を受検して

アメリカのレクティカ( https://lecticalive.org/ )という機関が実施している、成人発達段階のアセスメント(LDMA)があります。そのLDMAを3月末に受け、先日結果のフィードバックまでのプロセスを終えました。

LDMAとは何か?

LDMAは「Lectical Leadership Decision Making Assessment」の略で、一言で言うとリーダーとしての意思決定力を測定するアセスメントです。

  1. 認知と思考の複雑性
  2. 考えを明瞭に示すスキル
  3. 人を効果的に巻き込むスキル

で構成されており、それぞれ自分のスコアと、現時点でできること、次のステップ、次のステップに向かうため実践方法が詳細に記述されています。

※具体的なスキル定義は以下をご覧ください。 
https://lecticalive.org/about/ldma#gsc.tab=0

これらを単にスキルレベルとして測定するのではなく、そのスキルを「どんな意識段階で使っているか」までを明らかにするのが、LDMAの最大の特徴であり、良さだと考えています。

LDMAを受けるまでのプロセス

大きく分けて3つのプロセスがあります。

  1. インテーク
    フィードバッカーとの対話から、現状把握や、今後の見立てなどを相互に探求する。このセッション自体だけでも示唆があり、自分の指針にできるヒントをもらうことができた
  2. LDMAを受ける
    アセスメントに回答する。期間は1か月程度が通常だが、延長も可能
  3. フィードバックを受ける
    アセスメントレポートをフィードバッカーと見ながら解説を受けて読み解いていく

アセスメントは本来英語ですが、以下(※)を経由すると日本語でのサポートが受けられます。英語で回答できる方は直接レクティカへ、日本語で回答したい方は Integral Vision & Practice のサポートを受けると良いと思います。なお、翻訳する場合は、費用が別途掛かりますので、総額で30万円~40万円ぐらいになります。
※一般社団法人Integral Vision & Practice:https://integral.or.jp/fee/

この3つのプロセスを最速でやると1か月程で完了できるかもしれませんが、3か月ぐらいを掛けて進めると、日常生活の中でもこなせるかなと思います。1か月は、集中的に取り組めるとしたら、という特急プランのようなものですね。

LDMAの重要な思想:発達段階そのものを直接向上させることはできない

LDMAの重要な点として、発達段階の捉え方があります。

LDMAを開発したレクティカでは、発達段階そのものを直接向上させることはできず、あくまで具体的な実践に取り組む中で、発達段階が結果として変わっていくという考え方です。LDMAでは発達段階のスコアが直接的に示されるのではなく、自分の思考の明晰性×発達段階、他者を巻き込むスキル×発達段階が掛け合わされたものがフィードバックされます。

個人的な感覚としては、概ねレクティカの思想には共感しています。自分自身を振り返ってみても、コミュニケーション力を高める中で、内省する視点が身に着いたり、本当に自分の心の底を明らかにすると人間関係が大きく変わったりする体験をしてきました。

ただ、人の存在そのものに働きかける実践は、あることにはあり、僕も体験していて効果は感じており、そのようなアプローチを必ずしも否定しなくてもよいと感じています。(このような実践は、今回のようなフィードバックや他者に要請されて取り組むものではなく、あくまで自分の意思で取り組むものと考えています)

他のアセスメントとの違い

実はスキル定義だけでみれば、LDMAのスキルセットは必ずしもユニークなものではありません。似たようなスキルを測定するアセスメントはたくさんあります。では他のアセスメントとLDMAの違いは何か?大きく分けて2つあると考えています。

  1. スキルレベルだけを測定するものではなく、スキルをどんな意識段階で使っているか?まで明らかにしている
  2. 自己診断や他者からの評価ではなく、長文の論述から読み取れる意識構造を解析して、アセスメントしている

①については既に触れたので、ここでは省略します。

②についてですが、LDMAでは自身がとある組織のリーダーとして、論理的に考えるだけでは判断に迷うような場面が提示され、どんな意思決定をするか?そしてそれはどんな思考プロセスから導き出されるのか?など、おおよそ5つ程度の問いに対して、1問あたり1000文字~2000文字程度の文章で回答します。総計では1000文字~2000文字程度×5問=5000文字~10,000文字程度の論述ということになります。

これは体験してみるとわかるのですが、まず、お題は何か特定の正解があるようなものではありません。あちらを立てればこちらが立たないというような極めて迷う・悩むお題です。回答期間の目安はあるものの明確な締め切りがあるわけではなく、実際に僕の場合は全体で1か月、実質的には1週間程度で取り組みました。逆に考えると、どれだけ時間を使ってもいいし、何か調べたりすることも制限されません。

大学の持ち込み可の試験で、時間制限がない版と考えるとわかりやすいです。「時間がない」「該当するテーマの知識がない」といった言い訳が通用しないのです。(ちなみにお題は複数から自分にフィットしたものを選ぶことができるので、お題が自分と合わないという言い訳も使えません)できうる対策としては、複雑な状況下における意思決定の実践を積んで、リフレクションをする、以外にはあまり無いと思います。身もフタもないですが、それだけごまかしが効かないと言えます。

このプロセスを経ることに加えて、緻密な分析による結果が返ってくるので、必然的にレポ―トに書いてあることは極めて納得性が高くなります。

一方で、自己診断を用いたものや、360度フィードバックは、それぞれどうしても緻密さへの限界があります。その限界が、結果を受け入れられない、反発したくなるなどの反応を起こしやすいと考えています。実際にLDMAのフィードバックを受けている最中は、結果に反応するでも反論するでもなく、ほぼ心が揺れずに「まあそうだよね」と極めてフラットに受け止められました。

他の成人発達理論ベースのアセスメントとの違い

成人発達理論をベースにした他のアセスメントでも、LDMAのように自分の著述や文章から測定する手法が用いられています。これらのアセスメントとLDMAの違いは、意識段階を測定するものか?スキルレベルを測定するものか?というところにあります。

LDMA以外のアセスメントは、LDMAではフィードバックされない意識段階の測定が可能ですが、実際のパフォーマンスレベルを測定するものではありません。成人発達理論を実践で活用していく中で多くの人がぶつかる壁ですが、発達段階が高いからと言って、パフォーマンスも高いかというと、必ずしもそうではありません。発達段階だけがパフォーマンスを表すわけではないので、当然と言えば当然なのですが、発達段階だけを示されても、パフォーマンスをどう上げればいいのか?という具体的な解は示されません。

一方で、LDMAは「考えを明瞭に示すスキル」「人を効果的に巻き込むスキル」など具体的なパフォーマンスレベルがフィードバックされます。仕事の場面への置き換えもやりやすく、具体的に何が必要なのか?も掴みやすいです。先述したようにLDMAとて万能ではなく、人のすべてを明らかにするわけではなく、あくまで複雑性に対応できるスキルをどの程度発揮しているのか?に関するフィードバックです。

多様なアセスメントを受けると、より自分の全体像が見えやすくなるはずですが、現時点でどれか一つしか受けられないとすれば僕はLDMAをお勧めします。仕事への応用や人生における活用など具体的な実践を念頭に置けば、緻密で実践的なLDMAの方が活用しやすいと考えられるためです。

LDMAを受けてみての感想

フィードバックを受けても凹む感覚がなく、「まあそうだよな」とフラットに結果を受け入れられる

レポートにはスキルレベルが数値で示されたり、今のスキルレベルでできること、これから必要なことが示されます。通常この手のレポートを読むと少なからずショックを受けたりするものですが、LDMAの場合、一つひとつの内容が「その通り」という感じなので、疑ってかかるでも鵜呑みにするでもなく、反応したり反論する気があまり起きず、理解が進むといった感じでした。意外とフィードバックのプロセスは淡々したものになるかもしれません。

これは一見インパクトが薄そうに感じられますが、行動変容といった観点ではボディーブローのようにじわじわと効いてくると考えています。フィードバック自体を受け入れられないと、そもそも行動を変える気にならないからです。

特にこの手のフィードバックに慣れていない人(ほとんどの人がそう)からすると「受け入れやすいアセスメント」「優しいフィードバック」と感じるかもしれません。LDMAを受けて、気持ちが穏やかになる、心が落ち着くといった感想を抱く方もいるらしく、その背景にはこういったものが作用しているのかもしれないと思います。

ビジネスでの応用可能性はかなりありそう

成人発達理論を扱う中で、どうしても出てくるのが「じゃあ具体的に何をしたらいいの?」という問いです。もちろん発達理論の研究が進む中で、各段階ごとに効果的な実践というものが徐々に明らかにされていますが、特に高次の段階になればなるほどマニアックになっていき、一般向けではないなと感じています。

その点、LDMAの場合、次のステップに進むための実践が現実的・具体的なものが複数提示され、学習リソース(動画や文章)も提供されるので、その中から自分がトライしてみたいものを選べるようになっています。なお、スキルレベルはAI(部分的にアナログ)で判定されているとのことですが、提示されるアクションはレクティカとフィードバッカーの方で話し合いながら選択されるとのことです。

また、LDMAでは、統計的に見出された今後の成長可能性もフィードバックされます。つまり、この後自分がどの程度成長する余地があるのか、統計的な分析結果がわかります。

詳しくはリンク先のレポートのP28( https://lecticalive.org/about/ldma#gsc.tab=0 )を参照してほしいのですが、縦軸がスコアで横軸が年齢です。あくまで統計上のものなので、これだけを選定基準にするのも危ないとは思いますが、少なくとも認知や思考の複雑さといった点において、伸びしろのある人材は誰か?を把握する材料の一つとしては活用できるかもしれません。リンク先のグラフ推移をみると、中年期以降は成長が緩やかになる傾向が高まっていきます。

もちろん早期に成長が止まる人もおり、全てがそうだとは言えませんが、ある程度早い段階(10代から40歳ぐらいまで)から長期的に成長を試みることが、人材育成の観点からは重要と言えそうです。ただ、やみくもな早期育成は、発達に逆効果とも言われており、この2つを統合してみると、「早期からゆっくりとしたペースで実践を続けること」が効果的と言えるのかもしれません。発達は「slower is better」と言われるのもこういった背景も理由の一つにあると言えそうです。

LDMAが万能かつオールマイティというわけではない

先述のようにLDMAは発達段階やその人のあり方を示すものではありません。中にはあまりインパクトが無かったと感じる人もいるようです。また、個人的な経験からも、BEINGの探求は決して無駄なものではなく、効果や効能がすぐには現れないものの、BEINGの領域を軽視するのではなく、両方に取り組むこと、両方を統合させていくプロセスが重要と考えています。あり方を中心に見るアセスメントと、スキルの成熟度を観るLDMAを共に活用できるのが望ましいと思っています。

今後の実践に向けて

フィードバックを受けた後に感じたことですが、そのあとの実践は一人ではなく複数人のチームでサポートし合いながら取り組むと良いのでは?と感じました。というのも、現状の自分だと、ちょっと荷が重いと感じるスキルを複数提示されるからです。また、実践プランはレクティカの提唱している学習プロセスに沿って提案されており、このプロセスをすべてのスキルで進めようとすると、1年ぐらいは要する分量になります。ある程度の期間、難易度が少し高めの実践を複数かつ継続的にやっていくとなると、一人だけで取り組むのは限界があるようにも思います。

この状況はLDMAを受けた人であれば、同じような感覚になると思うので、であればみんなで支え合いながら実践を進めた方が行動変容が起こりやすいし、思うような変容が起こらないときも励まし合えるのではないでしょうか。なお、これはフィードバックの中で聞いたことですが、他者に教えることによって学習効果が高まるということもあるそうです。今後自分がLDMAを紹介していく際には複数人での実践をぜひおすすめしたいですし、僕自身もどなたかと一緒に実践を進めたいです。

ということで、これからLDMAを受けてみたい方、LDMA受けたよ、という方と情報交換ができればと思いますので、お気軽にご連絡ください。

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