コラム

セミナーレポート
企業におけるLGBT対応のポイント

2023/07/21

一般社団法人日本LGBT協会 代表理事を務められ、企業への講演やコンサルティングを行っている清水展人さんをお招きして、「【夜の楽校】 LGBTの当事者&プロフェッショナルが語る「企業におけるLGBT対応のポイント」を開催し、企業に求められるLGBT対応へのポイントについてご紹介いただきました。参加者の皆さんとの対話では、マネジメント層のLGBTへの理解促進や教育研修で考慮すべき点など、実際の職場で直面している課題に即して、清水さんにお話いただきました。

Index

  1. 講演:企業におけるLGBT対応のポイント
  2. 参加者からの質問と回答

企業におけるLGBT対応のポイント

清水 展人(シミズ ヒロト)

非営利型 一般社団法人 日本LGBT協会代表理事
https://www.hiroto-shimizu.com/
書籍
子どもも大人もわかっておきたい いちばんやさしいLGBTQ
今とこれからがわかる はじめてのLGBT入門 ほか

職場や学校でのLGBTQの現状

多様性、ダイバーシティインクルージョンに言われる中で、LGBTQについても、どういうことを学んでいけばいいのか、どういうことを知っていけばいいのかという点に注目は集まってきています。

性的マイノリティLGBTQと言われる人たちは、実はAB型とか左利きの方と同じくらいいます。8%とか10%くらいと言われます。これは、職場の中で40人の職員がいらっしゃれば、4人ぐらい、100人いたら10人ぐらいいてもおかしくないということです。

テレビ等マスメディアでも言われているように、議員さんがちょっと失言という形で、うちの地域にはいませんっていうことを言ってしまうとか、企業では上司の方が悪気なく、あなたは彼女いるのか、結婚しているのか、ということを言ってしまう、忘年会のときに盛り上げるために女装をする、そんなことが、今でもあります。それは、そもそも悪気がなかったとか知らなかったというのは、もちろんそうだろうと思います。

実は、このLGBTQについては、今や小中高の教科書で取り扱いがされています。だから子供たちはある意味自然なこととして性の多様性を学んでいるというわけです。

この4月に、多くの職場や取引先で新入社員を迎えられたと思います。自分の社内や取引先、サービス利用者、顧客の中にも、10%ぐらい、AB型や左利きと同じぐらい、性的マイノリティの人がいるということ。このことを、知っているか知らないかということが、実は会社の売り上げを伸ばしていく、一緒に働いている人を守る大切にするという上でも、非常に大事になってきます。

性的マイノリティやLGBTと聞くと、近寄りがたいな、どう関わるといいのだろう?と思われることもあります。逆に、身近に感じているというケースもあります。

私が皆さんの企業に研修に伺い、LGBTQというテーマを伝えずに、会社ですれ違った場合、「こんにちは」と挨拶をしただけであれば、皆さん、私のことをどう思われますか?「何か爽やかな人だな」と思って私とすれ違ってくれたりしません?優しい皆さん、ありがとうございます。

実は私はLGBTのTにあたるトランスジェンダーです。元々女性で生まれて、男性。すれ違っただけで私がLGBTに該当するトランスジェンダーの元女性だということを、皆さん気づかれますか?多くの会場でお話ししますが、皆さん気づかないと言われます。

何が言いたいかというと、LGBTQに該当する人は、AB型ぐらい、左ききぐらいの方と同じくらいいるのです。なぜ見えづらいかというと、私がトランスジェンダーだとことが、皆さんに見えづらいように、人のセクシャリティーは、実はグラデーションというふうに言われています。

実際に、私が小中高大学や早ければ幼稚園に行ってお話ししているのが、「性別は体の性別だけではない」という話です。私は30代ですが、学生時代、体の性別が主で、卵子があって精子があって、受精して、生命が生まれる、そういう学びが中心だったと思います。

今何が変わってきているかというと、体も大切、体の性も大切。さらに性的指向、好きになる性も大切。性自認、性を自分でどう認識するかも大切。性表現、その人がしている髪型とか服装も、その人らしいのが大切。この四つの視点を持ちながら、その人らしさを大切にしていくのが大事だという、教育の方向性に変わってきています。

人権課題になっているのは、性的指向と性自認

そんな中で、人権課題になっているのが、今紹介した4つのうち2つです。性的指向と性自認、この2つを法務省が人権課題にしています。

性的指向というのは、恋愛対象はどうかということです。異性愛者や同性愛者、両性愛者、恋愛感情湧かない、無性愛者など、色々あるかと思います。異性愛者だから生きやすく、同性愛者だったら生きにくいといったことが、起こらないようにと思います。例えば、企業に当てはめると、異性愛者なら企業で福利厚生も受けられるけど、異性愛者でなければ、福利厚生を受けられないといったケースや、社員旅行に異性愛者は安心して行ける一方で、同性愛者は安心して旅行に参加しづらい、健康診断を受診しにくいなどです。

生まれながらにしての肌の色とか生まれた土地とか、皆さんの性別が女性だから肩身狭いってのおかしいじゃないですか。子供だから虐待を受けるのもおかしいです。性別も、元々生まれ持った私達の人権に関わる要素です。その持って生まれた性的指向・恋愛対象が、例えば、LGBレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人は、たまたま同性を好きになる、たまたま異性だけじゃなくて同性も好きになるという、そういうケースなだけなのです。

しかし、公的な保障や法律もまだ整っていない段階において、企業の倫理規程でどうなっているかというところが、結構(企業に)委ねられています。

人権課題のもう1つが性自認ですが、この性の認識もグラデーションです。中には私と同じように、体の性別と心の性別に違和感を覚えるトランスジェンダーが存在することもあります。トランスジェンダーの人だから、更衣室で着替えづらいとか、宿泊研修に参加しづらいとか健康診断の時にも声を出せないとか、手術に行くことを話せなくて退職を余儀なくされるとか。このようなことが生じると、退職される企業側も嫌だと思います。例えば就職面接のときに、将来的に名前を変えたい、性別を変えたい、ということを安心して伝えることができれば、実は本人だけじゃなくて企業にもメリットがあります。そういうことを前提として、名刺は仮名で作る、名札も仮名で作る、ということが最初からできるかもしれません。環境を整えることも出来ます。

この性自認も、アイデンティティですが、ジェンダーアイデンティティと言われますが、持って生まれたものです。私達が日本人であるという、この日本人というのもそうですし、肌の色なども変えられないのと同じです。

SOGI(ソジ)ハラスメントとは?

性的指向のことをセクシャルオリエンテーションといいます。性自認のことをジェンダーアイデンティティといいます。頭文字を取ってSOGI(ソジ)といいます。

そういう人間の持って生まれた変えられないところに対して、「あなた彼氏いるの?彼女いるの?」のとか、もしくは、その人に対して、「男なのか女なのかはっきりしなさい」って言ってしまうなど、相手が嫌だなって感じると、これはハラスメントになります。

このハラスメント、SOGIハラスメントとも言いますが、性的マイノリティの人のどれぐらいの方が、会社の中で嫌だなっていうことを感じていると思いますか?SOGIハラスメントは、実に当事者の9割以上が受けているというデータがあります。ほとんどの人が、嫌なことを結構言われたり、我慢をしていたり、相談窓口がなくて相談ができないという状況に置かれているのが現状なのです。

どういうことが今起こっているかというと、やはりメンタルヘルスの不調、うつ病、退職したくないんだけど退職してしまうというようなメンタルヘルスの問題が出てきます。私自身もメンタルヘルス研修でLGBTのことを話すことも最近は出てきました。先ほどもお話した通りセクシャリティーはグラデーションであって、私達はみんな違うセクシャリティーを持っているわけなのです。

安心して伝えられる環境がないと、伝えられない

そういった中で、大切にしていきたいのが、安心して伝えられる環境です。私達のセクシャリティーは目には見えませんが、その人が異性愛者なのか、違和感を持っている人なのか、どういう人なのかということを、安心して打ち明けられる、相談してもいいと思える、そんな環境がないと伝えられないって、いうことなのです。

例えば、今全国の自治体でパートナーシップ制度は100以上の自治体が取り組んでいます。だから、企業の中で勤めている人の中には、自治体のパートナーシップ制度を使ってパートナーと認められましたというケースがあります。だけど、会社に言うかどうしようか迷っている人もいるわけです。そういった場合に、例えば朝礼のときに、異性愛カップルの人だったら、「結婚おめでとう」ってみんなから拍手してもらって、結婚祝い金が出る。結婚休暇がもらえる。そんな姿を見て、もちろん「おめでとう」と拍手を送るけれども、なぜか悲しくて涙が出てくる。そういう話を友人から聞くこともあります。

企業におけるLGBTQの取り組みの意義

私が関わっている企業でされていますが、会社の中で倫理規定の中で差別を許しませんというルールを作るのも一つです。もしくは、うちの会社では同性パートナーの人に対しても、結婚祝い金を出すし、休暇も取ってもらうし、住宅手当を出すとか。例えば、養子縁組を組んで家族というケースもあるわけです。そういった場合には、子供手当も同じように平等に出すというようなことをされていくと、LGBTQの人たちが何も言わずに不満はないですと言いながら辞めていくケースも結構多いのです。でも、不満はないです、言葉にはできないのだけれども、会社のそういう体制や制度をちょっと変えていく、あと社風ですよね。ルールだけではなく、会社でこういう研修をやっている、取り組みをしているなど、そういう話しやすい空気感を作っておくっていうことも、離職を防いだり、新しい職員を確保したりする上でも有用なわけです。

SDGsのマークを付けている、誰1人取り残さないと会社が言っている。にもかかわらず、こういった(LGBTQの)研修に取り組めていないのであれば、研修をすることをお勧めします。今メディア等も含めて、LGBTのことを取り上げるようになりました。学んでいない世代、30代以上の方々は、他のコミュニケーション研修やハラスメント研修をされているかもしれませんが、このテーマの研修をやること、SDGsを掲げているのであれば、特に一貫性を持つという上で、大切だと考えています。

そして、信頼です。企業の信頼、一緒に働いている方の信用にも繋がるということです。謳っているだけではなく、きちっとされているのだなと。体制を整えたり、意識のアップデートをしたり、信頼できる会社だなと。そういうふうなことに繋がってくるっていうことになります。

厚労省でも、この性的マイノリティに関する取り組みをどんどん進めてくださいと、こういうリーフレット等も出しています。
多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて~性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内~
https://www.mhlw.go.jp/content/000808159.pdf
多様な性への理解と対応ハンドブック【PDF】
https://www.moj.go.jp/content/001341628.pdf

多様な人たちが過ごしやすい社会作りはもちろん、介護されている方や女性の働きやすさ、男性の働きやすさも含めて、みんなが働きやすいということがすごく大切なのです。しかし、まだまだこの社会の中では、マイノリティとされている方が声を出しづらい、生きづらいという中で、そこの話を聞いて頂けたらなと思っています。女性の推進も言われていますが、男性の役職比率など見ていくと、女性の働きづらさへの取り組みも、非常に大事だと思っています。そういったことと同じように、(LGBTQの方の)働きづらさや生きづらさを、一緒に解決していくところで、企業の皆さんにも、一緒になって学んでいただきたい、知って頂きたいと思っています。

まずはLGBTQについて知ることが大事

今20分ぐらいお話をしたわけですが、日ごろであればこれを2時間ぐらいお話したり、ワークショップしたり、半日もしくは1日かけてもできる内容になります。ステップワンツースリーと用意していますが、まずは行政機関などでも、市役所、県庁に来られる人たちの中には性的マイノリティの人いますので、どの部署でも一定の知識を持ちましょうということで、研修を沢山して頂いています。

企業でも、この知識を持っていく(ことが大切です)。知識を持っていないと、今日ご紹介した4つの構成要素(性的指向・性自認・性表現・性的特徴)のうち、性表現と言われる服装や、手足顔など、体の性や表現する性は、見た目ですれ違って見えますが、人権課題になっている性的指向、性自認は、皆さん気づいて頂けますでしょうか?目に見えない部分ですよね。

つまり意識を向けてないと、人権を侵害されたと感じてしまう人たちがいるのです。だからこそ、勉強してきていない、学んできてない世代の人には、特にそこに意識を向ける研修を開く意味があります。

そういった知識や理解をしっかりと広げた後には、厚労省が言っているように、研修を開きましょうとか、福利厚生は平等に公正になっていますかとか、相談窓口ありますなど、いくつか項目があるのですが、そういったところもアクションとりつつ一歩ずつ進めていただきたいです。もし必要であれば、私自身もこうしたZoomや直接現場に月1回お伺いしてなど、お力になることも可能です。

最終的に、例えば、新入社員を入れることが最優先事項であるという企業は、ステップ3のところで、うちはSDGsでもジェンダー平等のところに力を入れている、LGBTQのフレンドリー企業だから、ぜひ新入社員来てくださいというような広報活動をする段階にあるかと思います。

でも、実際には、フレンドリー企業ですって謳っているにもかかわらず、受付や人事担当者に傷つくようなことを言われるということが、現にあるのですね。だから、いきなりフレンドリー企業と言ってしまうのではなく、しっかりと土台を重ねて、福利厚生も含めてやってから、(はじめて)、その辺の発信も含めて、より積極的に(広報活動を)やれるフェーズに入っていくっていうのが、私としてはお勧めです。

決してLGBTQの人たちが、仕事できないかと言ったらそんなことはなくて、非常に真面目であったり、優しい方であったり、みんなが優しいかと言ったら、解らないですけれども。優秀な方も多いというふうに言われております。人事採用戦略や経営戦略の中でも、活用できるのではないかと思います。また、新たな商品を作りたい、サービス作りたいというケースでも、LGBTの視点を活かした会社さんも本当沢山あります。不動産会社やホテル、アパレル関係も非常に積極的です。

最近出ました「子どもも大人もわかっておきたいLGBTQ」にも企業(の取り組み)の内容を書いています。また、去年出ている主婦の友社さんからの本にも、企業のこと、SDGsのこと、両方書いていますので、お勧めです。

子どもも大人もわかっておきたい いちばんやさしいLGBTQ
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今とこれからがわかる はじめてのLGBT入門
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参加者からの質問と回答

企業が取り組む際に、どこから取り組めばいいのか?また、社内で取り組む同意を得られない・・・

海外の会社でも同じようなことが起こっています。例えば、女性がもっと企業で働きやすく、LGBTQの人が働きやすく、と声を出すのは、かなり圧がかかっており、大変なことなのです。私が日頃お願いしているのが、こうしてセミナーに参加してくださる方が、Ally(アライ)といいますが、支援者が、そういうのが大事だということを、声を出していかなければ、やっぱり当事者だけでは、しんどいですよね。一緒に働いている人たちを守っていくこともそうなんが、そのことに気づいて、そういう人たちのために一緒に立ち上がる人というのが非常に大事です。

スタートは、研修が一番いいかと思います。というのも、上の層の方達には難しいかもしれませんが、まず気づかなければ、見えないからいないのではなく、見えないけどいるという前提でやっていかなければ。スタートは研修で、さらに意欲的な方が出てきた場合に、またそこから広げていくというような、ケースが多いです。トップや役職の方は、どうしても世代的にも上の方が多く、よほど意識が高い、人権に認識のある企業、また、外資系は結構早くから取り組んでいます。一方で、最近、裁判事例でも首相の秘書官があのような発言した。同様のことが企業でも今どんどん起こってきているので、早くから言っちゃいけないことぐらい学んだらどう?ということも含めて、研修でお伝えしています。

会社の中では、女性が男性の割合に対しては少ない会社も結構ありますが、女性の方がマイノリティのことも共感してくださるケースがあります。気づいた人が、「社長、早めに(LGBTQへの取り組みを)やっておかない?やっといた方がいいのでは?」という形で、上の人に言ってあげることが、会社を救うと思います。

まずは研修からということでしたが、具体的にどのような研修をされていますか?

今は、経営者や経営幹部向けが半分以上です。代表者や役員向けの〇〇研修というのが多く、次に多いのが全社員研修。全員が出席できないということで、一部に限られることもありますが、昼休みや仕事が終わってからの時間でやるケースも結構あります。新人研修でやることも多いです。

経営幹部向けには、どのようなテーマで研修を行いますか?

本当は「もしカミングアウトを受けたら」などをテーマにワークショップもできますが、この10年ぐらいは、その基礎の基も分からないということで、本当に分かりやすい、やさしいところから、全部教えて欲しいということで、かなり基礎的なところが半分ぐらい、実際にどこがしんどかったか、苦しかったかっていうところの話をしてほしいっていうところが結構多いです。

まず基本的なところから知りたいということで、実際私が官公庁で話していること、子供たちに話していること、どういう知識を持った新入社員が入社してくるのか、社会の変化、厚労省を含めて、そういった変化を伝えています。コンプライアンスとかハラスメント研修の一部としての開催も多いです。SOGIハラスメントは、もちろんハラスメントの一つです。対策は義務になります。

従業員としてLGBTの方々が企業に何を求めていますか?調査ではカミングアウトしたいと考える方の割合は多くなかったと記憶しています。

カミングアウトするのは義務ではないです。絶対しなさいというのも本当におかしい話です。体の状態のグラデーションを教えなさいとか、ホルモン値や体の状態など全部カミングアウトしなさいって言うのもおかしい話じゃないですか。

カミングアウトする必要すらない。(LGBTQの人であっても)福利厚生がちゃんとしていて、住宅手当や祝い金が出て、全部ルール整っていて。(そうした手続きが)ボタンを押すだけでいいのであれば、カミングアウトしなくてもいいかもしれませんし、相談もしなくていいかもしれません。何か機械的にすぐできるシステムがあるならば。しかし、そんなところはまだ本当に少ないです。むしろ整っていないからこそ、カミングアウトとしないといけないってことが起こっているのです。ですので、カミングアウトしなくてもいいような、むしろステップ2の体制、経営体制を整えてもらうと、より上が何かしなくても良くなります。カミングアウトしなくてもいいのです。今は、カミングアウトしなければ、まだ会社の中も整ってないという状況だということです。

LGBとTの人で、企業に求めていることが異なりますか?

まず共通しているのは、生まれ持ったセクシャリティーで働きづらくなったり、しんどくなったりというのを、早く変えてほしい、やめてほしいっていうのが一番みんな求めていることだと思います。会社の中で働きづらい、嫌な思いをしている状況がやっぱりきついということです。

違いは、性的指向(好きになる性別)に関しては、パートナーシップのところです。結婚に関する祝い金や休暇、手当のところは望まれているケースが多いです。

トランスジェンダーに関しては、違和感があって手術を望む人ばかりではないのですが、例えば仮名を使いたいということもあります。今後変更したい、手術をしたいと考えているケースもあります。手術をしていると、戸籍上の性別を法律で変えることができます。性別を変更したときにも、例えば保険証とかマイナンバーカードとかいろんな場面で、性別と名前と変更することがあります。その際に、担当の人に、「どうして?」など、いちいち聞かれることもなく、すっと(手続きが)行くといいです。更衣室や宿泊を伴う研修などの場面でも、対応してほしいことを、相談窓口に話ができることも、大切になってきます。

実際に、私が色々な企業の研修をする中で、過去には男女で制服の色が違うということもありましたが、色を一緒にしたり、学校でもいろんなパターンが出てきたり、企業でも押し付けないっていうところが増えてきています。

ゼロからLGBTQの啓蒙を始めて、うまくいっている企業の事例を教えてください。

うまくいっているところは、スピード感があります。そういう企業は、トップと役員の意識が高い。私と同じくらいの熱量を持っている会社は、ものすごくスピード感があって早いです。

人権、人が生きるとか働くとか、そこに関わっていることが、ただ単に趣味指向じゃない。その人の生きるところを否定するか、認めるか、そういう根本的なテーマのお話を私自身しに行っています。そういう人権感覚意識のある企業は、スピード感も早く、研修も新人職員に対してももちろんやってくださいます。それはすごく大きいなって感じている。

逆に壁を感じるのが、他の会社であるのが、人権担当や人事担当者は「清水さん、早く来てやってほしい。」「SOGIハラスメント、うちの会社はすごくあります」と言われるのですが、役員が「NO」って言う。「それをうちの会社でやらない方がいい」「触れない方がいい」と。(そういう研修を)やるから、そういうことになると。そのような考えのトップの方がいると、すごくゆっくりになってしまう、ということがあります。

でも、例えば資料をお渡しするとか、担当の方がその上司に「厚労省からもこういうふうに言われています」「清水さんは実績あります」とか、こう言って頂くと(次につながる可能性がある)。最近も大手企業で、最初は、今までやったことがないテーマで、何回議題に上がって下げられながらも、最終的には開催しました。

誰か気づいた人、もしくは人権課題だということに響いた方が、声を出すのは大変だと思います。でも、それ以上に当事者が声を出すのは、本当に大変です。しんどい思いをしながら、やり取りをして、そんな研修駄目だと言われたら、否定されたと感じることもあるかもしれません。

単にコミュニケーション研修とか、マナー研修とはちょっと違うのです。当事者が声を上げづらいっていうところで、Ally(アライ)ですね、大切な研修ってことに気づいた周りにいる人たちが声を上げて、やっていく方向に持っていってくれることに、救われるということです。

学校でも、子供たちが、校長先生に対して、(LGBTQの話をしてくれる)人を呼んで、話を聞きたいと直接訴えるのはしんどいけれども、間に保健室の先生や先生が入って、校長に訴えてくれるわけです。企業の中でも、悩んでいる人たちから声を出してもらうのを待つっていうのは、かなり酷な話です。こういうことを分かった時点で、やはりAlly(アライ)の人たちが必要性を訴えてくれることが、非常に大切なことです。企業の中に、声を出していない性的マイノリティの人がいることを前提として、そういう人たちの力になってほしいなとも思いますね。

LGBTQ理解促進の研修に後ろ向きなトップの意識が理解できません。彼らはどう考え、どう思って拒否反応をしめすのでしょうか?

どんなセクシャリティーでも、女性が活躍していくとか、こういうマイノリティの人が活躍していくとなると、自分のポジションが取られるのではいかと心理的に恐怖に感じてしまう方々もいらっしゃるということです。そんなアンコンシャス・バイアス、無意識の偏見とも言うのですが。自分で気づくしかないのですよね。(でも、)自分では気付けない。気づくような話を聞くとか、今まで興味持ってなかった出会いを持つことも大切なのではないかと思います。自分自身も人権のことだけではなく、他のことを学んだり、出会ったりすることもやっているつもりです。色んな人の色んな話を聞いたり、出会ったりというのは、自分の成長に繋がるというふうに思いますので、皆さん一緒に頑張っていきましょう。

若手の感覚が分からないというような管理職に対して、どのように伝えていったらいいか?   

年上年配の方々が、若い子に関わって本音を聞いていくしかないのではないか。昔だったら飲み会の席で、あなたはそう考えているんだな、でも自分はこう考える、みたいな。(今は)コミュニケーションが取りづらくなって、どういう考えを持っているかということの共有が難しい時代に入ってきていると思います。

もっともっと、話しやすい、雰囲気を作っていければと思います。そのきっかけとして、LGBTQというテーマは、若い子たちが本当に興味持っているのでので、上の世代の人が積極的に発信したり取り組んだりすると、話の切り口にもなると思います。また、一緒に寄り添っていこう、若い子たちの知っていることを自分たちも知っていこうと、そういう姿勢を、大人の側、上の立場の人から見せていく。相手を変えるよりも、自分たちを変える方が早いと言います。新入社員を変えてやろうって思うより、自分たちがまず若い子たちが学ぶ姿勢、率先して自らが学んでいく姿勢を見せていくことで、若い子たちは、すごい先輩たちが頑張っていると思える。

「LGBTの人に気づかないといけないのですか?」って聞かれることがあって、私が言っているのは、「はい、LGBTQの人に気づかなくていいですよ。ただ今日気づいてほしいのは、言わなくてもここにいるという前提で、いるってことに気づいてほしいのです」と。探してほしいわけじゃなくて。詮索をしなくていいのです。「いる」って言うことに気づいてもらえば。

ビジネスマナー研修などの研修で、「男性の服装」「女性の服装」などと表現しているケースがある。どのように取り扱っていったらいいか。

マナー研修は、サービス提供をする側であれば、サービスを受ける側の人が、気持ちよくサービスを受けられるという結果が得られればいい。制服を綺麗に着るっていうことは、みんなできると思います。ただそれを、男子だからとか女子だからという観点ではなく、お客様に喜んで頂ける、清潔感持つ制服、職員も自分にぴったりくるなって思うような制服の選択肢があると、生き生き働けると感じます。

今、学校(の制服)はかなりレパートリー増えてきています。ズボンとスカート両方買ってもいいとか、もちろんスカートだけでいい子はスカートだけでいいなど色々です。企業のマナー研修であれば、この服ならこういう着方をしてほしいっていう伝え方がいいと思います。

内部統制について、どこから手を付けたらいいか?どのような体制で進めたらいいか?

単に研修だけでなく、新入社員獲得ということで、人事部の人も必要になってきますし、広報もしないとで、広報部も関係してきます。そして、倫理規程の扱い、経営部門などいろんな部門が関わってくるわけです。そうなると、ここの部署だけということが、本当に難しくなっていきます。

例えば、私であれば、月1~2回zoomや訪問させて頂くとか、それぞれ優先順位つけて整えることを、ダイバーシティ推進として、会社の外部の立場からお手伝いすることもできます。内部で出来ないことは、頑張って内部でやるのか、外部の人に頼るかのどちらかだと思います。内部で頑張ってできないことであれば、私のような、国のことや、行政のこと、あと会社のこと、色々分かっている人物に言われると、スムーズにことは進みます。現在、(企業の)4~5人のダイバーシティ、D&Iグループなどで、ミーティングしたり、研修を組んだり、書類チェックしたり、そういうことをやっております。

土台を整えることが大事という話があったが、清水さんからみて、土台が整ったと言えるのはどのような状況か?研修だけ土台を整えるのは難しいと感じている。

社内にいる当事者の方々が声を上げてくれて、プロジェクトチームに入りたいということがありますが、やはりそういうふうに、声がポツポツとでも上がってくると、進んできたということが見えます。(声を上げやすくなる環境になって)ようやく安心して、相談はまずできる段階になったという感じです。

100人ぐらい集まって頂いたら、1回の研修でも、お1人ぐらい、声をかけてくれることはあります。だから、1回の研修でも効果は(効果といったらなんですけど)あります。1人でも声がまた上がってくると、その後、あるグループ会社では実際そのあと福利厚生やそのあたりのルールを一緒に変えました。

10人ぐらいの会社さんでも、(研修を)やったら取引先の方のお子さんがトランスジェンダーだったというようなことがありました。

清水さんから見て、声を出しやすい職場の特徴はありますか? 

意見を出しやすい職場は、やはり多様性について様々な取り組みをされている企業さん、若手の意見を聞こうという意図が見える会社さんは、声を出しやすいのだなというのは、見えます。だからLGBTQ以外にも、そういったところ(企業)は、その他の人権課題に対してしっかり組んでいるとか、真摯に向き合ってやっています。

飲むことばっかり、もちろんそれもいいのですが、人と接することも非常に大事です。時にはそういう社会的な課題問題にも真摯に向き合うような。ダイバーシティのほとんどずっとやっているような会社さんは、真摯な姿、社風が安心感に繋がってくる。ひいては、LGBTのこともやるってことになっていきます。会社としての信頼とかね。本当に繋がってきますよね。最終的には人を大事にしているということ。

我が社は経営層がなかなかの旧態然とした考えの面々で、女性の活躍などもまだまだ。経営層に訴えかけるには、メリットを伝えるべきでしょうか?必要性を伝えるべきでしょうか?

私も中小企業で話すこともありますが、売り上げが上がるというふうに言ってくれないと、なかなかやれないよ、なんて言われる方がいます。でも、人を大事にできないと売り上げは絶対に上がらないと思って。企業研修のときに、売り上げの話もしたりしていますが、やはり人を大事にするということは退けられないなと思っています。

だから、メリットを伝えるべきかというと、ぜひ伝えてほしいです。従業員を大切にするとか、顧客を大事にするとか、従業員を大事にするということが、本当に大事だということ。そのために、学んでいく姿勢を、知りたい・聞きたいという姿勢を、上の人が取ってくれるだけで、会社の空気が変わるのではないかと思います。

例えば、海外のインバウンドを狙っているようなホテル業では、LGBTQのことをやっているとホームページに書いていると、(お客様が)来られると。そうして、売り上げが伸びているということもあります。不動産会社では、同性パートナーと一緒に住むっていうときになかなか言えない、伝えられないが、黙って片方だけで契約して、実は2人で住んでいるときに、トラブルになることがあります。それを回避していくために、(お客様に)安心して話してもらえるように頑張っているところもあります。

また、保険業では、例えば、性別を変更する人がどの保険に入ったらいいのかなど。実は、私のやっている協会とタッグを組んで、保険のイベントをやったら、たくさんの人が来て、多くの人が保険に入ったということが、過去にありました。

さらに、化粧品会社と一緒にイベントをしたのですが、非常に売れたということもありました。一般的に良い化粧品ですよって売るだけではなくて、トランスジェンダーの人でも元男性から女性になりたい人でも安心して来てください、ちゃんと教えますよというように、どうやって顔のコツコツした出っ張りを丸く見せるかみたいな話なども、色々解っていますよというふうに。そういうふうにビジネス活用されている方もいますね。

最後に

企業のLGBTQ対応や研修については、こちらからお気軽にご相談ください。
また、清水さんのHPにYoutube動画が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

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