コラム

人事コラム:賃上げブームの舞台裏
企業の賃上げに関する質問に答えます

2024/04/23

近年の物価上昇と人手不足を背景に、2023年より一気に潮目が変わり、ここ30年で最高の賃上げ率となりました。ベースアップも多くの企業が実施しています。この流れは一過性のことではなく、しばらくは賃上げムードは続いていくと予想されます。しかしながら、この賃上げによる人件費の増加にいつまでも耐えうる企業ばかりかというとそうではありません。人件費全体を単に増やしていくのが難しくなる局面に今から備えていく必要があります。

このコラムでは、3回に分けて、昨今の賃上げブームの背景と企業が賃上げにどのように対応したらよいかについて、解説していきます。
 1.近年の賃上げ動向と今後の予測
 2.企業は賃上げにどう対応したらよいのか?
 3.賃上げに関する質問に答えます(本コラム)

今回は、賃上げに関して、企業の担当者からいただいたご質問に回答します。

Index

  1. 近年の賃上げ動向<ベースアップの主流は定額か定率か?傾向を教えてほしい/a>
  2. 賞与の算定基礎に含める手当は?
  3. 給与が最低賃金に追いつかれそうな現状。賃上げをしたいが、人件費は限られている。どうしたらよいか?
  4. 初任給が高い企業は、手当等で初任給を上げているのか?

1.ベースアップの主流は定額か定率か?傾向を教えてほしい

Q.当社では、例えば「全員の給料を1万円増額」といった形で全員にベアを行ってきました。ただ、当社の給与体系では年齢給も採用しており、年齢給に大してベアを行っていることになり、一律でベアし続けると等級間の格差よりも年齢給が大きくなってしまいます。これをこのまま継続すると、等級間の格差よりも年齢給の方が大きくなり、上昇志向(昇進昇格したい気持ちなど)がなくなってしまうのではないかと危惧しています。各社がベアを進める中で、主流は定額なのか定率なのか、または全然違う方法なのか、傾向を教えてください。

A.年齢給であれば、年齢層別に、例えば若年層に多めに充てるなどはやりやすいです。定率か定額かで言うと基本的に定額です。年齢給が大きくなると職能側(評価で配分される側)に目を向けなくなることもあり、年齢給は今使いにくくなっています。

ある会社の事例ですが、年齢が上がっていくと生活レベルも上がるため設計されたのが年齢給ですが、中途採用の方が入社すると「年齢が低くても前職の給与が高かった、ではどこを調整するのか、職能給を調整しよう」という話になっていました。そのため、年齢給も勤続給も職能給も全部「基本給(職能給)」に統合した上で、ベアは職能給に対して実施する形にしました。職能給の等級ごとの給与レンジ(各等級の給与の上限と下限の幅)がありますので、この給与レンジ全体を上げて、各レンジの中にいる人も上げていくイメージです。

尚、全体の傾向としては、前述した給与レンジを上げることを全体に実施できればいいのですが、できないという会社も多く、年齢給を採用している会社は年齢別で区切ったりします。他には給与レンジについて、管理職層では上げず非管理職層で上げたりしますが、これをやりすぎると非管理職層と管理職の格差が詰まってしまいます。そうなると次の対応策として、管理職には役職手当を増やしていく、管理職という残業代を払わない対象を減らしていく(労務的にも安全なため)ことなどが求められます。

2.賞与の算定基礎に含める手当は?

Q.賞与の計算について、算定基礎にはどのような手当を含めるのが一般的でしょうか?

A.賞与の算定基礎は基本的には基本給+役職手当が多く、営業手当や技術手当はあまり加味しません。理由は営業手当や技術手当は役割とあまり関係ないためです。基本給は能力、ということで算定基礎に入ります。算定基礎は基本給だけの会社もあれば、基本給+役職手当の会社もあります。役職手当は同じ管理職でも役職についている人とついていない人に差をつけるため、算定基礎に入ります。諸手当はついている人といない人がいるため、それにより賞与が変動するのは不公平ではないかと思われることが多いと思います。

公平感は大切だと思います。会社によっては、例えば「賞与の原資は5,000万円で、それには諸手当(営業手当や技術手当など)を入れて給与2か月分」だと言いながら、分配は「基本給+役職手当」で行うところもあります。分配時は不公平感を持って分けています。

3.給与が最低賃金に追いつかれそうな現状。賃上げをしたいが、人件費は限られている。どうしたらよいか?

Q.賃金が年々上がっている中で、決して低くない水準で設定したはずの給与が最低賃金に追いつかれそうになっています。賃上げをしないといけないのですが、最低賃金に引っかかる層だけを上げるわけにはいかないので全体を上げなくてはと思います。しかし、人件費は限られています。でも最低賃金を下回ることはできません。当社はどうしたらいいでしょうか。

A.本当におっしゃる通りで、最低賃金を下回ることはできません。そして、賃金をどんどん上げていくのが国の政策です。知り合いの中小企業も「もう無理」と悲鳴を上げていました。質疑応答で「無理」という回答はあんまりだと思いますが、どこも本当に人件費で大変です。そことはまた別軸で政府はやってくるので(正確には政府の意向をくんで審議会が答申します)、最低賃金を上げていくのは完全に国策です。ニュースなどは「価格を引き上げて賃金に転嫁しよう」と言いますが、でも「そんなに当社にできることはないのでは」と多くの企業が不安を抱いています。

選択肢の1つは上層部の賃金をこれ以上上がらなくして、そこから原資を持ってくることです。しかし「当社は上層部が稼いでいる」となると、最低賃金並の人はもう雇わない方策を考える流れになりますので、こればかりは万人受けするアドバイスが難しいです。ご質問の通り、例えば最低賃金を上げて去年からいた人の給与が上がり最低賃金と同額になってしまうと、当然ながらその人は「私の1年間は何だったの」と怒ります。そのため、最低賃金が30円上がったら、既に在籍している社員には追加で給与を10円上げていくような処理をして、なるべく影響が出ないようにしているのが実態です。

4.初任給が高い企業は、手当等で初任給を上げているのか?

Q.初任給30万を超えるような会社は等級制度ではなくて、いろいろな手当等をつけて初任給を上げているのでしょうか。

A.そういう会社もありますが、手当をつけてもどこかで調整しなくてはいけません。先の質問でもあったように「新卒の初任給の方が前からいる自分より高い」となったら非難ごうごうです。手当を入れれば給与体系が変わらずに済み、2~3年目や昇格をした後に詰まるところまでは調整していく考えになりますし、「それならこの際一気にテーブル自体見直そう」となる会社もあります。ただこれも31万、32万と初任給を上げていくと、いたちごっこになってくると思います。

Q.その見直しというのは、要はベアで合わせるということですか?

A.その通りです。ベアで合わせる際に、たくさんあった格差を縮めつつ等級・テーブルを組み立て直すイメージです。例えば3万円上げようと言って単純に上の等級まで全員上げる会社はそうそうないでしょう。最初の等級は3万円、その上の等級になると2万5,000円、その上は2万円でそのまた上が1万5,000円、といった感じです。逆転には配慮した方がいいですが、全員が平行移動するわけでありません。

新卒の若年層は取り合いです。そして、初任給を30万円にしたところで、次は親という強力なファクターもあります。「どうせなら有名な会社に入りなさい」とか「上場企業がいいよ」とか、本当に親御さんはおっしゃるので、企業側がどんなに頑張っても必ずしも入社してくれるわけではありません。一定のところで採用対象を新卒から中途へ切り替える会社も出てくでしょう。ただ今は第2新卒も給与が上がっているので、もう少し中高年寄りになってくるという予測もあるようです。巷で聞く話は「新卒を頑張って採用して3年間、給与もすごく上げたのに結局辞めてしまいました」というように、本当に悲しみに溢れていました。ここまで売り手市場になるとお金はもちろんですが、「有名かどうか、ブランド力があるか」の要素もかなり出てきます。

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